クリエイト速読スクール体験記 '19

積読山の登頂に向けて
・クリエイトのトレーニングがもたらした効果と副産物

石川 竜一郎

はじめに:実感のない速読訓練からの出発

 私は現在、大学で研究と教育に勤しんでいます。私の研究室には読まれずに放置された書籍の山、正に「積読山」が立ちはだかり、この山を早く征服しなければと焦燥感に苛まれる毎日でした。昨年(2018年)瀧本哲史さんの対談記事を読み、クリエイト速読スクールの存在を知り、入会に至りました。入会が昨年のゴールデンウィーク直前ですので、まだ一年足らずですが、現段階で85回の受講を終えたところです。この一年足らずで経験したことや、感じたことを以下でお話しさせていただきます。

 そもそも私が速読に初めて興味を持ったのは、大学受験生の時でした。とある受験雑誌に、入試の英文読解に有効であるとして速読の本が紹介されていました。私は受験勉強の一環としてその本を購入し、読み始めました。思い起こすとその本は、クリエイトのレッスンでいうサッケイドシートに対応するものだけで構成されていたと記憶しています。毎日取り組んではみたものの、さしたる実感もなく終えてしまいました。

 一度は挫折した速読ですが、メディアの影響もあり、速読への興味は継続していたため、いくつかのスクールから資料やお試し教材を取り寄せたこともありました。それらの教材や本を使って何度か挑戦しましたが、やはり速読の実感が湧くことがなく、これは直接手ほどきを受けなければ習得は無理だなと思ったまま、時間だけが過ぎていきました。当時は東京に住んでおらず、近隣に速読スクールもありませんでした。

 仕事柄、多くの研究論文を読まなければならない日常に、活字を読むスピードの必要性は感じつつも、実はそのことは切実な問題にはなりませんでした。それよりも切実だったのは、読みたいと思い購入した小説や啓蒙書が「積読山」を築き上げていくことでした。目下の仕事に直接必要ではないと、読むことをどうしても後回しにしてしまい、後回しにされた本がどんどん読まれず積まれていくという悪循環に陥っていたのです。

クリエイトとの出会い:心地よい筋肉痛

 仕事の関係で東京に転居し、一度は「積読山」が整理されました。残念ながら、読む時期をすっかり逃し、切り崩され、古本市場に流れてしまった書籍もありました。本には読むタイミングというものがあって、購入時の最も興味を持っている時期を逃すと、手にも取らなくなることを実感しました。

 そんな経験をしたにも関わらず、数年が経ち、研究室には以前と同じような「積読山」が出来上がっていました。以前と変わらず、書店や新聞の書評を通じて読んでみたいと思い立ち書籍を購入はするものの、日常に忙殺され机の上に置いたままになってしまうことが繰り返されたわけです。ちょうどその頃、前述の瀧本哲史さんの記事を目にしました。速読とは関係ないインタビューの中で、自然と速読の話題が出てきており、調べてみる価値がありそうだと興味をもったのです。

 とは言え、すでにこれまでいくつかの速読法を試し、実感の得られないまま現在に至っていたため、今回も半信半疑ではありました。資料の取り寄せはすぐに行いましたが、体験レッスンに申し込もうという気持ちにはなりませんでした。このスクールに通うべきだというなにか決定打が欲しかったのです。

 そこでまず私が行ったのは、クリエイトのホームページを読み込むことでした。クリエイト速読スクールは1984年設立の老舗で、ブームに乗って最近始めたようなスクールではないことがわかりました。当時から数多くの受講者の体験記が掲載されており、さらに興味は高まりました。その上、いくつか書籍を出版し、体験に行かずともレッスンの内容がわかると思い、『速読ジム』(日本実業出版社)をすぐに購入しました。

 そこでは、ワーキングメモリを鍛えること、トレーニングの継続の重要性、そして実際に実践された方の効果などが紹介されていました。私がこれまで読んできた速読の本では、速読を可能にするために培う具体的方法論について、ここまで丁寧な説明はされてなかったと思います。こうした丁寧な説明から、紹介されているトレーニングに挑戦してみる価値があると感じました。また、実践された方の速読のスピードが非常に現実的な数字だったのも、良い印象を持ちました。

 余談になりますが、我々はテレビや広告などの影響で、速読に対して誤った認識をもってしまっている気がします。テレビ等で「驚異の速読力!」という形で紹介される方々は、やはり「驚異的!」なのです。テレビに出演するくらいですから、オリンピック選手のような正に世界レベルの力を披露しています。

 パラパラっと数十秒の短い時間で、本一冊の内容をしっかり把握できる能力は、大変な訓練と努力のなせる技でしょう。速読オリンピックでもあれば、金メダル候補になるような方なのではないでしょうか。それにも関わらず、速読スクールによっては「誰でもそこに簡単に到達できる」かのようなキャッチーな広告を掲げ、誤解を与えています。「速読=超高速で読破」という誤解は、速読業界全体にはマイナスです。もちろん、訓練を続けることで驚異的なレベルに到達し得るかもしれません。しかしそれは、少なくともオリンピック選手と同様な驚異的訓練が必要でしょうし、それだけの訓練をこなせる人は必然的にかなり絞られてくるはずです。

 閑話休題。『速読ジム』では、訓練後に分速で5,000字~15,000字まで読書スピードが伸びた方のことが紹介されています。これでも十分な数字ですし、読書スピードが凡そ同じ範囲に収まっていることで、トレーニングを積めば個人差なく到達できるスピードだろうと感じました。そこで、四の五の言わず『速読ジム』のトレーニングをきちんと取り組んでみようと思ったのです。

 トレーニングの前に(カウント)呼吸法から入るのも、当初はユニークさを感じましたが、リラックスをして集中力を高める呼吸法の意義や回数の目安も書かれていたので、一人で取り組んでいても、忠実に行う動機になりました。毎日の取り組みを通じて、これからトレーニングを始めるという意識が高まり、その必要性の理解も深まりました。

 呼吸法の後のトレーニングは、まるでゲームにハマるかの如く没頭してしまいました。とにかく思うようにはできません。特に『速読ジム』にはスクール受講生の記録も掲載されているので、自分の記録と比較すると自分のスコアの低さに愕然としてしまいます。それでも、掲載されている目安の目標値にはもう少しで届くかもしれないという期待から、トレーニングのモチベーションが高まりました。トレーニングそのものにゲーム性があるため、スコアが上がらないと悔しい思いが生じ、よりスコアを上げたいという欲が出るのです。ですから、ついつい何が悪かったのだろうと自省し、どうしたら良くなるかということまで考えるようになりました。また、何よりも新鮮だったのは、トレーニングを終えると、最近使っていなかった筋肉が解されていくかのような感覚を、脳で感じたことです。私はマラソンを趣味にしていますが、春先の暖かくなり始めた頃に、春風にのって長めの距離を走り終えた時に似た、心地よい筋肉痛のようでした。自分が普段使っていない部分を鍛えているという新鮮な感覚があったのです。

 このような感覚を得て、『速読ジム』の10日間のトレーニングを終える頃には、過去に何度も挫折した速読が自分でも可能になるという確信を得ることができました。そのために、初めて速読スクールへの入会を決意し、体験レッスンの申し込みを行いました。時期はちょうどゴールデンウィーク直前。集中してトレーニングを始めるには良い時期でもありました。

クリエイト入会:積読山への登頂開始

 体験レッスンの予約のメールを送ると、当日に返信を頂きました。資料請求時にも感じたのですが、こうした早いレスポンスも、細やかなことですが、クリエイトへの安心・信頼の材料になりました。運営体制がしっかりしている証しでもあるかと思います。

 体験を終え、松田先生の説明を受けた際の、「長い時間をかけて磨き上げてきた方法」という言葉に、さらに信頼が増しました。入会したばかりでしたが、『速読ジム』である程度トレーニングを把握していた私としては、とにかくトレーニングのスコアを上げたいという気持ちでいっぱいでした。ゴールデンウィークは毎日通い、トレーニングの攻略に夢中になっていました。

 この時期の自分の感想を読むと、スコアを上げることに躍起になって一喜一憂している様子もわかり、すこし気恥ずかしくもあります。クリエイトには100回を超えてトレーニングされている方はもちろん、何年も継続して通っている方もいらっしゃるわけです。それにも関わらず、最初の10~20回でスコアが上がらないというのは、悩みというにはおこがましいわけです。

 それでも、最初の段階でトレーニングのスコアを上げることに躍起になったのはよかった気がします。自分のトレーニングの得手不得手を把握できました。得意なところはできるだけ早く次のレベルへ上げようとする意識が高まり、苦手なものはどうすればうまくできるようになるかという探究心が湧きました。トレーニングのゲーム性の存在に加え、ブログで他の受講者の方の変遷を見ることができたので、自分のスコアとの比較が可能だったことも大きな要因でした。自分が得意なトレーニングであっても、凄まじい速さでレベルを上げている方が山ほどいらっしゃるので、そうした方を目標にすることは現在も変わっていません。

 入会してすぐに、日常生活にも変化が現れました。一つは、仕事のスピードが上がったことです。今までは面倒な仕事をつい後回しにしてしまう傾向にありましたが、入会後は面倒なものこそ先に済まそうという気持ちが湧き、むしろ積極的に取り組む姿勢に変わっていきました。そのため、仕事に勢いがつきスピード感を持って進めることができるようになっています。

 もう一つは、隙間時間で本を読む習慣がついたことです。今までは片手に「スマホ」が常でしたが、今は両手で「本」を開いています。こうして、「積読山」への登頂が始まったのです。

 隙間時間で読み終える本が増えていき、「積読山」が少しずつ低くなっていくのがわかりました。

 当然のことながら、意外に簡単に読み終わってしまう本もあれば、じっくり読みたい本もあり、想像以上に本の内容による差があることも実感しました。総じて啓蒙書に近いものは、早く読み終えられる実感を得たのもこの頃です。情報収集を目的としている書籍は、どこを読むべきかが自然とわかるからです。このことを、私自身の仕事と照らしてお話ししてみます。

 私は研究を生業としているので、自身の研究成果は論文という形で発表します。論文執筆の際には、自身の研究と関係する先行研究を調べ、それらの研究と自身の成果との違いを明確にしなければいけません。研究内容が最先端に近いほど、世界中で数多くの研究成果が存在している可能性があるため、読まなければいけない先行研究の論文も自ずと多くなります。

 一方で、研究テーマが近いことは、共有する部分が多くなることも意味します。私の専門は経済学ですが、分析には数学を用いるため、数学的定式化の差異や結果に注目することで、多くの研究論文をある程度スピード感をもって読むことができます。かつては、これは研究分野の特徴で、数式を理解して意味を把握していることが要因なのではないかと思っていました。

 ところが、クリエイトで倍速トレーニングに取り組んでいると、特に初期の頃は1ページあたりの文字数も少ないこともあり、先行研究を読んでいる時と同様に、数式を理解するように文字を理解する感覚を得ることがしばしばありました。結果、「積読山」からそれが可能な本を発掘することで、スピード感をもって読み進めていくことができたわけです。膨大な論文の処理を、このように図らずとも自分の仕事上で行なっていたことを知り、速読トレーニングの意義を実感し、クリエイトでの訓練の信頼感はさらに高まりました。

レッスンの副産物:書物への敬意

 クリエイトの講師の方々も説明されているように、小説の方が速読は難しいと思います。啓蒙書とは異なり、情報を獲得するわけではなく、小説ならではの舞台風景や心象風景を感じながら読み進めていかなければならないからでしょう。前述の先行研究を読み進めたり、啓蒙書を読むこととは根本的に異なるわけです。

 しかしここで発揮されるのが、イメージ記憶やイメージ読みのトレーニングなのだと思います。私が一年近く通ってきた中で、受講36回目のトレーニングは今でも忘れられない貴重な回として記憶に残っています。

 ひらめきは突然訪れました。その日は中盤のトレーニングの最後に、イメージ読みが入りました。いつものように講師の方の合図とともに、訓練を始めました。数行読み進めると、すぐに文章の風景が脳裏にさっと浮かんだのです。そのまま45秒の制限時間の中で、最初から最後まで映像が頭の中で流れていきました。正にテレビでドラマを見ている感じです。これ以降のイメージ読みのスコアは更に上がってはいますが、この時ほどはっきりストーリーの風景が浮かび、映像が流れていったことはその後まだありません。

 映像として読めた文章は、内容もしっかり記憶しており、事細かに登場人物の挙動や心情が頭の中に残ります。映画やテレビドラマの一瞬を切り取って、その場面が頭にあるようなものですから、説明もしやすいのです。

 これが速読か! と初めて強く実感しました。この読み方を、どんな本でもできるようになるならば、小説も速く読めるはずだという確信にも繋がりました。それほど私には強烈でした。これ以降、私の速読トレーニングではこの36回目のイメージ読みの実現という明確な目標ができ、それを目指す形で訓練を行なっています。このため、倍速トレーニングでも小説を選ぶことが多くなりました。

 クリエイトに数多ある本を倍速トレーニングでこなすことで、普段の自分ならば出会うことのなかった本にも巡り会うことができました。例えば、トレーニングの初期段階で読んだ齋藤孝さんの「ガツンと一発シリーズ」は、大切なことを子供にもわかる平易な言葉で説明されています。シリーズの何冊かは、息子にもいくつか買って渡したくらい感心しました。

 自分が知らなかった作家の作品にもいくつも触れることができ、その中にはもちろん自分の好みに合う作品との出会いもありました。トレーニングで一通り読んでも、もっとじっくり読みたくなった作品は、自ら手に入れ、改めて読み直したりしています。最近でいうと『ジョルジオ アルマーニ 帝王の美学』(日本経済新聞社)は、普段の私ならばほぼ読むことのないジャンルの本ですが、読んで感銘を受け、改めて購入し直した一冊です。

 クリエイトのトレーニングを通じて、まだまだ知らない世界を見ることができ、この歳になって改めて本の素晴らしさ、広がりや深みを感じることができました。先人の知の蓄積や多くの作家の方々の多彩な感受性や世界観が私の知らないところにまだまだ多く残されていることを目の当たりにすることで、書物に対する敬意を抱かずにはいられなくなりました。

 クリエイトで用意されている書籍は、講師の方が選んだ良書が並んでおり、新刊も次々と置かれています。ここにあるものを読み尽くすためにも、まだまだ通い続けたいと思う次第です。

最後に:積読山の頂きに向けて

 現在85回を超え、週2・3回通うことを目指し、少なくとも10日に2回は通うように心がけています。とはいえ、仕事で忙しい時期には、2か月ほど間が空いてしまった時期もありました。ただ、久しぶりのトレーニングでも思ったほどスコアは落ちておらず、ホッとしたことを覚えています。トレーニングで一度上がったスコアは、多少のブランクがあったとしても下がりにくいことを実感しました。しかしもちろん、そのペースではスコアが上がることはありません。

 スコアを上げるには、とにかく短期間でも集中的にレッスンに参加し、スコア向上を意識しながら取り組むべきだと強く感じています。それを継続的に行うことも考慮すると、やはり週2・3回という頻度は丁度よく、講師の方の説明も腑に落ちました。クリエイトはレッスンの時間割を自由に選べるので、スケジュールが流動的な私にはとても助かっています。これが、特定の時間帯にレッスンを入れるタイプのスクールでしたら、通えなかったことでしょう。

 さて、現在の私の研究室の「積読山」は、どうなったでしょうか。実は高さこそなくなりましたが、裾野が広がっています。すなわち、私が読みたい本のジャンルが広がっていったということです。これまで私は、自分の好きな小説や自分の仕事に関わりそうな啓蒙書ばかりに目がいき、そうした書籍が山を高くしていきました。クリエイトに通うことで、これまで目を向けてこなかったジャンルにも目がいくようになり、すべての書物に敬意をもって接するようになったという表現は大げさではないと思っています。ただ、先ほど書いたように、本には読むべき時期があります。手に入れたらすぐに読み始めることを意識し、山が高くならないようにしています。

 教室でレッスンを受けていると、まだまだ私の上をいくスコアでトレーニングをこなしている方々にかなりの頻度で出会います。私は日中の人数が比較的少ない時間帯に行くことが多いので、人数の多い夕方の回には高スコアの方がもっとたくさんいらっしゃることでしょう。こうした方々に出会うと、私のトレーニングの意欲も高まり、良いスコアを出したい気持ちも強くなっていきます。まだまだクリエイトでお世話になりながら、新たな頂きを目指さなければならないようです。