体験記

クリエイト速読スクール体験記 '10

生徒の目で、講師の目で

砂金 直美

1.始めるきっかけ

 初めて旧司法試験の短答試験を受けた2002年直後、速読を習得したいと思った。理由は、元来、読むスピードが遅いこと、また、問題文が一度で頭に入らず、何度も読み返してしまうため、短答試験で時間不足に陥ったことにある。

 そこで、勉強仲間に、速読教室を教えてほしいと頼んだところ、「池袋に速読スクールがあるけど、自分で訓練すれば、速読なんてできるようになるよ」と言われた。どのように訓練すればよいのか尋ねたら、判例百選の一つの判例(B4版の見開き1ページに一つの判例と解説が記載されている)をストップウォッチで計って読むという方法だった。

 今から思えば、そのような方法で速読ができるようになるはずがないと分かるのだが、当時、司法試験の勉強を始めたばかりで何の情報を持たない私は、長年勉強しているその仲間の言葉を信用し、自分で訓練し始めた。次の年の短答試験も、やはり時間不足に陥った。加えて、1年間勉強したはずなのに前年と変わりない点数で落ちたことにショックを受けた。

 何か、根本的に対策を講じないと短答試験は合格しないと考え、すぐに、その仲間に連絡して、池袋にある速読教室を教えてほしいと頼んだ。その速読教室がクリエイト速読スクールだった。当時のクリエイトは、今のような綺麗な教室ではなかったが、不思議と怪しい感じはしなかった。パンフレットで司法試験の合格者を多数輩出していたことを知っていたからかもしれない。体験レッスンを受けた感想は忘れてしまったが、事務室で一通りの説明を受け最後に、「短答試験で時間不足に陥ることはなくなるはずです」と言われ、入会することを決めた。

2.生徒になって

 (1) 序盤のシートトレーニングでは、毎回、前回の数値を一つでも上回ることを目標にして取り組んだ。それでも、なかなか数値は上がらなかった。講師の方に、「まだまだしっかり見過ぎている」と言われ、少しラフに、そして、広く視野をとることを心がけるようにした。また、たて一行ユニットでは、講師の方から、探す文章の文末が目に入るか入らないかのところで、ページをめくるようにとのアドバイスを頂いたので、実践した。

 当時は、数値を上げるため、がむしゃらに取り組んでいたので分からなかったが、毎回目標を掲げ、早く、先へ、先へ、広く見ようと脳に働きかけたことで、少しずつ視野が広がり、見るスピードも上がったのではないかと、その後講師をやらせていただいて実感した。

 (2) 中盤のトレーニングは、意識革命を引き起こしてくれた。私は、正確に、丁寧に物事を行うタイプだった。それが災いして、司法試験の短答試験では、第1問から問題を解いて、分からない問題があってもその問題を捨てて、次の問題に移れなかった。だから、最後の方に簡単に解ける問題があっても、時間が足りず解くことが出来ないことがしばしばあった。

 そのような性格の私は、まず、イメージ読みのあらすじ書きに手間取った。あらすじ書きは制限時間が決められている。それなのに、私は、読んだあらすじを正確に、丁寧な字で再現しようとしていたので、当然、制限時間内に最後まで内容を書ききることが出来ずに終わっていた。いくら字が丁寧に書かれ、内容が正確に再現されていても、最後まで読めたということを時間内に表現しなければ、たとえ最後まで読んでいたとしても、それを相手に伝えることはできない。そのことに気づいた私は、とにかく時間内に要領よく、多少汚くても最低限読める字で、最後まであらすじを書くようにした。また、イメージ記憶でも、イメージするのが難しければ飛ばして、イメージしやすいものから記憶するようにした。

 このように、クリエイトのトレーニングは時間で区切られたものが多いので、時間内に一定の成果を上げるということは、司法試験の勉強においても大いに役立っていった。短答試験でも、分からない問題はすぐに捨てて、次の問題に移ることが出来るようになったし、簡単な問題から解いて点数を稼ぐという意識を持つようになった。

 (3) 本を隅から隅まで、一度で頭に内容が入らないときは何度も読んでいた私にとって、終盤の倍速読書訓練は苦痛で仕方がなかった。講師の方に相談したら、「ここではトレーニングと割り切って読むことが大切」とアドバイスを頂いた。普段、法律書などを読むときの、いわゆる熟読と、トレーニングでのスピードを重視しながら、内容を必死に読み取る速読を使い分けるようにしていった。トレーニングで、集中して内容を読み取ろうとしていたからか、しばらくすると、法律書を何度も読み返すことがなくなり、一度で頭に入るようになってきた。また、筆者が言いたい重要な文章は、この辺りだろうと読み取れるようになってきた。

3.文演を受けて

 クリエイトに通い始め、松田さんやスタッフの方から、「文演を受けるといいですよ」と誘いの言葉を耳にしていたが、ちょうど予備校の講義と重なり、受ける機会を逃していた。ようやく予備校の講義が終わり、文演を申し込んだ。

 文演では、駄目な表現方法から、なぜ駄目か、どうしたら良い表現になるのかということを学び、また、読解力も養うことができた。文演を受け始めて数回経ったとき、いつものように新聞を読んでいたら、何回か繰り返して伝える文章の文末が全て異なっていることに気がついた。それまでは、まったく気づかずに読み過ごしていたのである。

 文演を受けて、文章に対する心配りができるようになったことを実感した。

 また、友人と書いてきた答案を読み合い、批評したりするゼミを行っていた。あるとき、友人に「お互い同じような事実を並べて文章にしているけれども、砂金さんの文章の方が一番強調したいことが読み手に伝わってくるね」と言われたことがあった。司法試験の論文では、問題文の事実を拾ってきて評価することが求められている。友人も私も同じ事実を拾って評価しているのだが、文章の書き方によって、強調したいことが伝わる文章となるか、そうでない文章となるか違いが生じるのである。文演では,伝えたいことをどのように書けば、読み手にきちんと伝わるかを学ぶことができた。それを司法試験の論文でも活かすことができるようになっていた。

4.講師になって

 松田さんから、講師をやってみないかと声を掛けていただき、何でも挑戦したがる私は講師のお話を引き受けることにした。
 教える立場になったことで、教えられる側・学ぶ側としての姿は、こうした方が良いというのを知ることができ、これは、法科大学院に進学して大いに役に立ったし、これから先の人生においても役立つと思っている。

 教えられる側が必死になって努力していれば、教える側としても必死になって教えたいと思うし、手を差し伸べたいと思うのである。聞いているか分からないような態度を取られれば、話しても無駄かなと思ってしまう。逆に、こちらの話を真剣な目差しで聞いてもらえると、もっともっと私の考えていることを伝えたくなる。

 如何に教える側から情報を引き出すかは、教えられる側の対応にかかっているのだと身を以て感じた。だから、法科大学院に進学して、教授から多くのことを教わるため、真剣な態度で授業に出ていた。

5.最後に

 私は、法科大学院こそ司法試験に実績のある中央大学の法科大学院に入学することができたが、大学は司法試験とは無縁の地方の大学を卒業した。旧司法試験を勉強するため上京してきたが、当初は落ちこぼれで出来の悪い受験生だった。ある人には、「そんな大学出て司法試験受けるの?」と言われたこともあるし、「あの女には負けたくない」と陰で言われたこともある。それでも、私は合格することだけを信じて勉強した。変なプライドもなかったので、多くの人に勉強を教えてもらい、答案をみてもらった。

 そんな落ちこぼれだった私が今回試験に合格して、以前、予備校で指導していただいた弁護士の先生に合格の報告をしたところ、「今から思えば、砂金さんは、誰よりも合格に対する執念が強かったように思います」と仰っていただいた。

 私は、自分が選んだ法律書や勉強方法について、この本は大丈夫なのだろうか、この勉強方法で成果が現れるのだろうかと迷ったことはなかった。クリエイトのトレーニングもそうだった。このトレーニングで速読ができるのだろうかと迷ったことはなく、ただ、このトレーニングを続ければ速読ができるようになると信じ込み、ひたすらトレーニングを続けた。

 先ほども述べたように、私は司法試験を勉強するために上京してきた。司法試験を勉強している知り合いなど全くおらず、東京の予備校で勉強仲間を作ったりしたが、当初は心細くて仕方がなかった。そんな中でクリエイトに出会い、クリエイトは私を温かく迎えてくれた。クリエイトに出会っていなければ、私は途中で司法試験を諦めて郷里に帰っていたかもしれない。それくらい、私を支えてくれる家族のような存在だった。講師をお引き受けしてからは、特に、松田さんと桑田さんにはお世話になった。

 法科大学院に入学する前年に、旧司法試験の短答試験で失敗した。その年は、勉強していても楽しかったし、ここで最終合格しなければ一生受からないのではないかと思っていたので、短答試験に落ちたときは司法試験から撤退することを考えた。このときだけは、合格を信じ、自分を信じて勉強してきた私も、やっぱり私には無理なのかもしれないと覚悟した。しかし、松田さんや桑田さんから「諦めずに続けたほうがいい。砂金さんは諦めさえしなければ受かる人」と励まされた。多くの生徒さんや司法試験受験生を見ているお二人に続けなさいと言われたことで、もう少し自分を信じて挑戦してみようと思うことができ、法科大学院への進学を決めた。

 法科大学院に入学が決まってからも、少しでも早く法曹になりたいと思っていた私は、旧司法試験に未練があることを松田さんに言ったことがあった。松田さんは,「人生80年と考えれば、1年も2年も変わらないです。あとで、本気で勉強したいと思ってもなかなか勉強に専念することなんて出来ないですよ。中大ローとは、恵まれた環境じゃないですか」と言ってくれた。松田さんの助言で、旧司法試験への未練を断ち、法科大学院で2年間勉強して、新司法試験に合格することを目標にした。

 桑田さんには、愚痴を聞いていただいたり、ご飯をご馳走していただいたりと本当に良くしていただいた。いつも色々なことを気に掛けてくださり、クリエイトに顔を出すと「どうだった?」と声を掛けてくれた。桑田さんは、とても感情が豊かな方で、話をしていると心が軽くなることが何度もあったし、桑田さんに「大丈夫よ」と言われて安心することが多かった。法律の勉強をしていると、時々、気持ちが落ち込んでしまうことがある。ましてや、私は一人暮らしだったので、他の人と法律以外のことを話して気分転換する機会がなかった。しかし、クリエイトに来て、桑田さんの猫の話や昔話を聞いたりすることによって、人間的なバランスが保てたと思っている。ここまで、諦めずに自分を信じて勉強を続けることができ、そして、今回新司法試験に合格することができたのもお二人のお蔭だと思っている。また、他のスタッフの皆さんにも本当に良くしていただき、今日まで講師を続けることができた。最後になりましたが、皆さま、本当にありがとうございました。