高校生作品集

2001年度SEG文スキ受講アンケート

小石川 祥子

 私がこの講座を受講したのは、作文が書けなかったからです。特に書きたいテーマもなくて何となく書いているうちにどんどん行き詰まって自分が何を書いているのかわからなくなって、いつも最後は這いつくばるようにして無理矢理まとめていました。作文を書くのは本当につらかったし、くそくらえ!といった感じでした。けれど「文スキ」を受けて、作文に対する観点が180度変わりました。以前までは何の魅力もなかった作文ですが、すっかり魅せられてしまったように思います。言葉のニュアンスによって文全体が違って見えたり、何より作文は音、動き、色などを持てる。こう言うとクサイですが紙の上にドラマや映画を表せるという感じです。 自分の経験したこと、思い描いているものを文章さえうまければ読者にも見せることができるんだと気づいてから、作文はとても面白いものになりました。また、2回の作文提出でテーマを考えたのを通じて、自分の言いたいことは何かを考えたのも、良い経験となりました。全体的にこの講座を通して、自分の個性を再確認させられたと思います。「要約」にしても、文の読み方もスッカリ変わりました。前より整理されてスッキリ入ってくるようになりました。本当に勉強になりました。「SUPER」できたら絶対受けたいです。今までどうもありがとうございました!

第1作 甘い物とイギリス人

小石川 祥子

 この夏、私はイギリスの小さな田舎町にホームステイしてきた。

 イギリス料理は食べ物ではないと他の国の評論家は酷評する。けれど、ホストマザーの料理はあっさりしていておいしかった。時々出てくる恐ろしく甘いお菓子を除いては。例えば、ジャムを水あめでのばしたようなボウルいっぱいの怪しげな物体。それだけで舌がおかしくなりそうなのに、更にカスタードクリーム、ジャム入りビスケットをのっける始末である。

 イギリス人は老若男女、甘い物が本当に好きなのだ。スニッカーズのようなチョコレート菓子。道に出ればこれを食べ歩きする人に五分以内に出会う。それは子供だったり、五十過ぎのおじさんだったりする。昼時、町の広場はソフトクリームを持った人々で毎日いっぱいになる。特に老人が多い。太って背の低い老夫婦がソフトクリームをペロペロなめながらゆっくり散歩している。彼らの表情はとても幸せそうで、見ているこっちまで優しい、甘い気持ちになってきてしまったのだった。

 甘い物を食べると、ついつい笑顔になってしまうことが多い。気持ちまで甘く、幸せになるからだと思う。あまり甘味を食べない日本の老人に比べ、それが大好きなイギリス老人たちは、とても明るく、心が広いように思えた。例えばスーパーでレジに並んでいた老婦人。りんごを三個買おうと後ろに並んだ私に、あなたは量が少ないから、お先にどうぞと順番をゆずってくれた。頼んでもいないのにだ。イギリスでは、このようなことがしょうっちゅうあった。大の甘い物好きのイギリス人の舌が、こんな明るい性格を招いたのかなと思う。日本の老人達には珍しいこの活発さ。ここはひとつ、私達も甘味の摂取量をもっと多くしてはどうだろう? 毎日の心の持ちようが、もっと明るくなるかもしれない。

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第2作 マッシュルームとの戦い

小石川 祥子

 マッシュルーム美容院。これは私が長い間行っていた美容院につけたあだ名だ。それは近所にある小さな店で、四十代後半くらいで背の低い、いつも茶髪をくるくるに巻いた女の美容師さんがひとりで営業していた。客層は中年女性がほとんどで、私も母に連れられ、物心ついた時からずっと切ってもらっていた。

 さて、なぜマッシュルーム美容院なのかというと、髪の仕上がりがいつもマッシュルームのようなきのこ型になっていたからだ。中年女性たちは普通の髪型だ。私だけが、いつもきのこだった。肩につくかつかないかといった長さで毛先は内側に丸まり、前髪はピッと一直線。軽くなるようどんなにすいてもらってもこの形になる。美容院を変えたいと思っても、小さい頃からずっとカットしてもらっていた美容師さん。いきなり行かなくなったらどう思うかと思うと、変えられなかった。ショートにする勇気はなかったし、ロングにすると癖でぐしゃぐしゃになる。仕方なくボブで、いやきのこであり続けたのだった。

 しかしおしゃれに興味を持ち始めた中一の秋。ギャルの溢れるファッションビル109に初めて入った。店内でふと周りを見ると右も左も茶髪でロング。当時主流だったシャギーの沢山入ったストレートヘアがサラサラ揺れている。それに比べて自分は何だ。きのこだ。しかもマンホールでできているように真っ黒で重い。

 ショックを受けたきのこは、思いきってショートにしてみたが、無駄だった。きのこのかさの長さが縮んだだけだった。

 悔しかったきのこは、今度はロングにすることを決心し、ひたすら髪が伸びるのを待った。そして半年後。肩下五センチまで伸びた髪をつれて、今日こそはマッシュルーム独立を! といさんで美容院へ。シャギーの沢山入ったロングにとオーダー。長さもあるし、きのこになることはありえないだろう。余裕で雑誌を読みながら仕上がりを待つ。すきばさみによって、髪がどんどん軽くなっていくのが鏡を見なくてもわかる。仕上がりへの期待は風船のようにどんどん膨らんでいく。ブローに入った。軽くなった髪がドライヤーの風に揺れて、胸の風船はずみ出す。しかし次の瞬間、何かがおかしいと気づいた。下はストレートなのに、上の部分はどこか見慣れたシルエット。そう、そこにはきのこがいた。今度の髪型はきのこ雲だった。

 頭の中に原爆が落ちたような気分になったきのこは、それ以来この美容院に行っていない。行くのをやめてもう2年になるが、今ごろあの美容師さんはどうしているのだろう? たまに来る、あの店では珍しい若い人の頭を、今日も彼女はマッシュルーム型に切っているのだろうか。

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